東大VTuber愛好会のブログ

東京大学VTuber愛好会の公式ブログです。

ブラっと献血に名取へ

 先日、初めて東北に旅行した。行先は宮城、飛行機で1時間ほど掛けて空港へ到着した。僅かな肌寒さが北の地に来たことを体に知らせる。

WUGや鉄道むすめのパネルを横目に、電車に乗る。呆けていると、アナウンスが聞こえてきた。

「次は名取、名取。」


 VTuber愛好会の記事で、なぜ冒頭からオタクの旅行話を聞かされなければいけないのか、と思った方もいるだろう。ただ、これにはちゃんとした理由がある ――つまり、この宮城の地でVTuberのイベントがあったということだ。

 8月26日、とあるVTuber献血推進協議会とのコラボキャンペーンが大きな話題を呼んだ。そのVTuberとは、名取さな。宮城県名取市献血推進協議会が名取さなを起用し、若年層への献血の啓発に取り組み始めたのである。

告知はあっという間に拡散され、その反響の大きさから当初予定されていた市内のポスター掲示やのぼり旗の設置に加えて、急遽希望者へのポスターの配布が決定された。8月30日のキャンペーン当日には多くのせんせえ(名取さなのファンの総称)が集ったそうだ。

 ポスターの配布はこれまで3回(8月30日、9月26日、10月18日)行われており、日本各地の若者が宮城県名取市に集まるというその特異さからネットニュースにも取り上げられた。

www.asahi.com

 拡散は留まるところを知らず、ついには海外のニュースサイトでも話題となった。(余談だが、"Otaku rush to ~"という見出しで笑った。)

soranews24.com

 ドイツ向けや韓国向けのニュースサイトでも扱われたようだ。

 良ければぜひ、これらの記事にも目を通してみてほしい。

 VTuber界全体としても、企業の海外展開やバイリンガルの登場など海外へのアプローチが取られてきたが、最近は海外からも注目が集まっているように感じている。実際にニュースに取り上げられて以降名取さなの配信には海外からのコメントが多数残され、本人も驚いていた。

 味を占めた日本のせんせえ達によるローマ字英語が待機所で横行したり、それを見た海外のせんせえがエセ日本語を使ったりと、新しい交流が生まれているが、それはまた別の機会に。


 さて大きく脱線してしまったが、結局のところ最初の旅行話は、このポスターを貰うべく名取市に訪れたときの話だったというわけだ。

 献血当日の10月18日、満を持してイオンモール名取に向かう。(最寄り駅は名取駅ではなく杜せきのした駅だった。)

 早くなる足取りを抑えて駐車場に向かうと、そこにいた。
f:id:UTVT:20201030100212j:plain

 バーチャルサナトリウムがどこにあるのかは分からないが、それでも確かにこの時、名取さなは名取市に”いた”。リアルとバーチャルが交差した感覚、今自分が立っているこの地がインターネットの延長上にあるという感覚が1年ぶりに蘇った。

 受付を済ませ、献血をする。バスでの献血は初めてだったが、この9月から検査方法が変わり、腕からの採血ではなく指先に針を刺して血を採取するようになったそうだ。思った以上に短時間で検査が済んだので驚いた。献血自体も20分ほどで無事に終了した。


 献血が終わり、休憩所に行くと名取さなが出迎えてくれた。
f:id:UTVT:20201030100253j:plain

 けんけつちゃんと名取さなが並んでいる不思議空間が出来上がっていたが、コラボがより実体を伴って感じられ、思わず頬が緩んでしまう。

 休んでいると、担当の方がポスターを持ってきてくれた。一ファンとして感謝を伝えた後、献血についてのお話をいくつか伺った。

 献血業界としては、若者の献血参加が減少していることは共通の問題であり、どのように若者に対してアプローチをしていくかが課題であるそうだ。若者の献血離れはニュースでも見かけることがあったが、実際どの程度減少しているかを調べるために厚労省の公開するデータ*1を見てみると、確かに平成10年から20年の間で大きく減少した後横ばいになっていることがわかる。

 一方で、今回の献血キャンペーンでの年齢層を聞いてみると、圧倒的に10代、20代が多いそうだ。体感では9割近くが若年層だとも仰っていた。また、今回初めて献血をしたという方も多いそうで、アプローチとしてはドンピシャで啓発・推進ができたのではないかと喜ばれていた。

 献血参加者も普段の1.5倍ほどに増えているようで、発表から時間が経った今でもその影響の大きさが窺える。(余談だが、この日は初めてテレビの取材が入っており、NHK仙台でコラボの様子が放送されたそうだ。)


 献血のキャンペーンと言えば、赤月ゆにの秋田・京都でのコラボや、コミックマーケットコミケ)でのホロライブのコラボ、ご当地で言えば茨城の茨ひよりのコラボなどがこれまでも行われてきた。特にコミケは開催時期がお盆や年末年始で、帰省により血液量が低下しており、コミケ関連での献血の割合が高くなっている点、また若年層へのアプローチとして有効である点で重要だと日本赤十字社は述べている*2が、昨今の情勢ではそのような大規模イベントそのものが開催中止・延期になっており、貴重な機会が失われている。

 そのため、このような状況下でも献血を啓発・推進できる今回のコラボは、十分に意義のあるものだったのではないだろうか。これからもコラボが続いてもらえると、ファンとしては嬉しい限りだ。また、今回の件を受けて名取市以外でも、ご当地や縁のあるVTuberとのコラボキャンペーンが広がってほしい。


 しかしながら、献血と言えば「宇崎ちゃん」とのコラボが炎上したことは記憶に新しい。赤月ゆにも、自身の動画で赤十字社とのコラボ第3弾が見送りとなったことをユーモアを交えながら抗議していた*3が、赤十字社としても若者への啓発としてキャラクターを起用し、却って炎上してしまっては……と慎重になるのも理解できる。今回の名取さなとのコラボも、かなり思案したものだろう。幸いなことに、赤月ゆにのコラボはこの9月から改めて開催が決定しており、名取さなと名取市のコラボでも目立った批判は見当たらなかった。

 これは個人的な意見であるが、「宇崎ちゃん」の件では「声を上げることのできない」キャラクター性も要因の一つだったのではないかと考える。もちろんゾーニングの問題も大きな要因だったとは思うが、もし仮にキャラクターが、Noを伝えられる存在であったならば、公に出てくるものは被写体の許諾が担保されるため、批判も大きくはならなかったのではないだろうか。そのような意味で、キャラクター性と同時に意思を持った「VTuber」という存在は画期的な解決案の1つだと僕は考える。


 最後になるが、このような機会を設けていただいた名取市には本当に頭が上がらない。担当の方も、名取さな本人も喜んでいるようで、皆が幸せになる最高の企画だった。これを読んだせんせえがもしいれば、体調に気を付けながらではあるが、ぜひ名取を訪れてみてはいかがだろうか。

東大VTuber愛好会 会員 やよい

*1:参考:厚生労働省, 年代別献血者数と献血量の推移, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000063233.html

*2:参考:日本赤十字社, 日本最大規模のイベント「コミックマーケット」での献血活動, http://www.jrc.or.jp/activity/blood/cross/140710_001227.html

*3:参考:赤月ゆに,【激怒】巨乳に仕事を潰された【宇崎ちゃん】, https://youtu.be/s3NzN8s5nWY